北尾吉孝日記

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最近は「北尾さん、いつまでこのような相場が続くと思われますか?」と、多くの雑誌社や新聞社から聞かれます。私の見た感じでは、例えば10月28日に日経平均株価が6994.90円という新安値を更新しましたが、これは明らかに異常値ですぐにリバウンドすると思っていました。そうしたら案の定、30日には9000円台を回復しました。

では、なぜ28日の6994.90円が異常値だと思ったのか。7607.88円という値段は巨大バブルが崩壊して日本のほとんどの金融機関が大量の不良債権を抱え、金融システムのいわゆるシステミックリスクが問題となり、日本経済全体が大打撃を受けるという状況の中でつけられました。しかし、今回のアメリカ発の金融危機において、日本では金融システムにおけるクレディット・クランチ、すなわち信用収縮の問題という部分、あるいは多くの金融機関の資本の毀損によるキャピタルクランチといった問題が現実に起こっているわけではありません。従って、日本の株価が7000円割れの6994.90円というバブル崩壊後の新安値を更新するというのは全く理屈に合わない話なのであります。

このような値段がなぜついたかと言えば、これはひとえに米国や欧州で大損した欧米のヘッジファンドや機関投資家が日本株を投げ売っていることに因ります。そして、円がかなり高くなってきたという面では、彼らにしてみれば円の為替差益が大きなプラスとなりました。従って、このような中で欧米の投資家は日本株を投げ売ってきましたが、それに対し空売りして儲けようという日本の投資家も提灯をつけ、結果として最安値が更新されたのです。投資家が常に頭に入れておかなければいけない事は、6994.90円という値段が異常かどうかの判断が出来るかどうか、それが私は投資において非常に大事だと思っています。

欧米経済がマイナス成長になりますので日本はその影響を受けますし、日本経済のファンダメンタルズは相対的にしっかりしていますので円はまだまだ強くなると思います。しかし、為替水準は実質実効レートで見ればプラザ合意の頃とついこの間まで同程度の円安水準であり、長い間円は明らかに超割安になっていました。そのことを考えますと、今円高になっているのではなく、円安が修正されていると考える方が正しい見方であると思っています。そして翻ってみると、円高になることが悪いというような風潮もありますが、私は悪いことであるとは必ずしも思っていません。

一部の輸出関連企業は為替介入すべきだと発言していますが、日本が2003年~2004年に行った約40兆円という膨大なドル買い介入が、現在のおよそ100兆円の外貨準備金の大きな原因になっていることについて、今一度考えてみるべきだと思います。そもそも変動相場制の中でこれほどの外貨準備金を持つ必要はありません。そのようなことを行ったために、現在ではドルの価値が1円下落すると約1兆円損をするという状況になっています。しかしながら、未だもって日本政府はドルの買い介入を実施すべきだと言っておられる著名な経済人がいますが、ただでさえドルの信認が低下している状況の中でもしドル買い介入を行い、さらに将来ドルが下落したら、その責任を一体誰が取るのか?2003年~2004年の膨大なドル買い介入の責任は誰が取ったか?逆説的に言えば、もしそのようなドル買い介入を行わなかったら、米国のドルは暴落し金利を上げざるを得なかったわけで、そうなればサブプライムローン問題が起こらなかったとも考えられます。従って、変動相場制の下では為替の介入を基本的にやるべきではなく、実体に任せた方が良いのです。このような本質的なことが最近の議論では抜け落ちていると思っています。

為替については、もう少し冷静になって考えてみる必要性があると思います。例えば日本の2006年度の食料自給率はたった39%であり、殆ど輸入に頼っているわけですから、円高になれば大いに物価が安くなって良いとは思いませんか。また、ガソリン価格が大いに安くなって良いとは思いませんか。即ち国民経済的に見れば、日本人の生活水準が上がるということで、円高は決してマイナスのことではないのです。一部の輸出関連企業の収益が減るということだけで大騒ぎをするのは如何なものかと思います。

さて、本題の、この株式相場が今後どのように推移していくのかを考えてみましょう。当面はボラティリティ(上下の変動)が高い相場になるだろうと思います。そして、それは2009年中続くと思っています。なぜ続くと思うかと言えば、このサブプライムローン問題は、基本的には住宅価格が底打ちするまで解決しない問題であり、底が見えるまでは続いていく問題であるからです。アメリカの住宅不動産価格は2006年6月から2008年7月までにおよそ21%下がっておりますが、今まで上がり過ぎていたわけですから、まだたった21%の下落と考えるべきだと思います。これが正常なトレンドラインまで行くには、まだ20%~40%ぐらいは下落する可能性があると思っています。

変動金利型の金融商品であるサブプライムローンは、通常最初の約2年間は非常に安い優遇金利が設定されており、その間は返済に窮することはありません。しかし住宅価格がその間大幅に下落し、その優遇金利期間を終えるとノンリコースローンを借りている住宅所有者は返済せずに家から退去します。結果その住宅は銀行のものとなり不良債権化していくのです。現状はサブプライムローン関連の住宅の半分ちょっとぐらいしか不良債権化しておらず、優遇金利のものがまだ半分程度残っており、順次それが不良債権化していきますので、今後も土地や住宅価格の低落は当面続くものと思われます。従って地方銀行でも今後さらに不良債権を多額に持つという状況になっていきますので、今回の最大7000億ドルでの不良債権処理も十分な措置とは言えないと考えています。このような状況ですので、私は2010年の中頃までは実体経済として底が見えない状況が続くと思っています。

また、おそらくオバマ次期政権下では、どちらかと言えば富裕層に対して冷たい政治を執り行っていく可能性があります。富裕層の消費が減るということは米国にとって大変なマイナスの影響があり得ますので、米国経済は当面厳しい状況が続くと思います(約1000兆円の米国の個人消費のうち、40%は所得階層上位20%の消費です)。そのような中での株式相場の回復はと言えば、相場の先見性はおよそ6~8ヶ月ですので、逆算しますと2009年末か同下半期ぐらいから本格的な回復過程に入っていくだろうと思われます。為替について言えば、先ほどの議論ではないですが、円安の修正と日本経済の相対的なファンダメンタルズの良さにより、ドル円は80円台に入っていく可能性があると考えています。従って、輸出関連よりも内需関連の銘柄を選ぶべきだと思っています。

それから日本政府が現在検討しております「追加経済対策」の目玉の「定額給付金」ですが、それ程(多分30%以下)消費に回るとは思われず、その経済的効果には大いに疑問が残ります。それよりもダイレクトな公共投資や100%真水になる経済対策を実施すべきだと思います。それは従来のような道路を造るとか、橋を架けるというようなことではなく、例えば東京に新たな飛行場を建設するということが挙げられます。先日中国に行ってきましたが、北京首都国際空港は日本の国際空港とはスケールが全く違うと感じました。また、韓国の仁川国際空港やドイツのフランクフルト国際空港もとても立派な飛行場でした。やはり世界のハブ、アジアのハブになっていこうとするなら、東京湾に人工島を造るなどし、世界に冠たる飛行場を建設しなければならないと思っています。そのような公共事業であれば将来にも大いに繋がると思いますし、あるいは日本の脱工業化社会に向けた新しい産業を興すために膨大な金を国策としてつぎ込むのであれば、私は非常に意味があると思っています。しかし、残念ながらそのようなことを志向する政治家は現在のところおらず、実に嘆かわしいことだと思っています。




 

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