北尾吉孝日記

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2010年最後のブログ、『SBIグループの歩みと2011年の展望』でも指摘したように、日本でもPTSというものが大きな市場として育ってきており、小生が予言していたように今年は「PTS元年」と呼べるような状況になってきています。
PTSの月次売買代金について言及しますと、本年3月以降は下記推移に見られるようにチャイエックス・ジャパン株式会社(以下、チャイエックス・ジャパン)のPTS、「Chi-X JAPAN PTS」が「ジャパンネクストPTS(SBIジャパンネクスト証券株式会社が運営する私設取引システム)」を若干上回るという状況が続いており、先週金曜日の日本経済新聞朝刊に「株の私設取引、売買代金1兆円、6月28%増、初の大台――外国人の利用活発」との見出しで掲載された記事などにも「PTS国内最大手」としてチャイエックス・ジャパンが紹介されています。

ジャパンネクストPTS:1月-2,528億円、2月-2,858億円、3月-4,214億円、4月-3,518億円、5月-3,795億円、6月-4,841億円
Chi-X JAPAN PTS:1月-2,118億円、2月-2,822億円、3月-4,405億円、4月-3,630億円、5月-3,923億円、6月-5,155億円

何故現況がそうした形になっているのかを分析しますと、その一つに取引スピードの問題が挙げられると認識しています。
ここ数年の取引システム処理速度を巡る状況変化を端的に述べますと、NYSEユーロネクストと同様の最新鋭取引システムを実装したジャパンネクストPTSが保持し続けてきた圧倒的優位は、昨年1月に株式会社東京証券取引所(以下、東証)が新システム「arrowhead(アローヘッド)」を導入して以来、揺らいで行くことになったわけですが、そうした中で更には東証システムの処理速度比で4倍とも言われるPTSがチャイエックス・ジャパンにより提供されて行くということになりました(※1)。
ジャパンネクストPTSには非常に広範囲の証券会社がバランス良く参加しており、接続者は今後もどんどん加わってくる予定ですが、その一方でChi-X JAPAN PTSはアルゴリズム取引専門ヘッジファンドのようなものが4、5社程度でほとんどの取引をしているというのが実態であるようですので、両社の状況は大きく異なっています。
そのような情勢下、私どもも何時までも愚図愚図しているはずもなく、既存システムを上回る最新高速システムに移行するための手は既に打っており、その意味でも時間の問題で現在の劣勢は覆されて行くものと私は確信しています。
そして更にもう一つ、今私が取り組まねばならないと思っているのは、上記アローヘッドの導入により圧倒的に不利な状況に追いやられた一部のデイトレーダー、即ち、余りの高速化の御陰で思うように取引が出来なくなってしまったデイトレーダーを対象として、ある種の手立てを講ずることであります。現在某システムソフトウェア開発会社と次世代システムを導入すべく接触し始めています。
仮に当該事項が実施されるとすれば、株式会社SBI証券(以下、SBI証券)のデイトレーダーの中でも特に大口でアルゴリズム取引を行うような一部の個人投資家が皆カムバックしてくるというように私は考えています。
本件についても略話は煮詰まってきており、近々ご報告出来ると思われますので是非ともご期待下さい。万が一出来なければ、大口顧客を私共のPTSに直接つないでしまう方法もあります。

下記抜粋にもあるように本ブログで何度も指摘していることですが、日本の当局者は投資家保護の観点に立って「最良執行(どの市場で取引すれば最も有利かをシステムが瞬時に判断し、最も有利な市場を選んで自動的に売買を執行すること)」を行わずとも許される現在の仕組みを一刻も早く改変し、欧米と同様に法律で最良執行を明確にマストとすべきです。

【日本では2005年に最良執行義務が導入され、金融商品取引法では「第40条の2」に規定が設けられていますが、実際には未だに最良執行というものは日本に定着してはいません。
このような状況は正に異様と言う他なく、投資家保護の観点に立つならば、最良執行を行わなくても許される現在の仕組みは直ちに改変されなくてはなりません。
例えば米国では最良執行を行わなければ投資家保護の観点から当局に罰せられるのが当たり前で、なぜ日本では未だ以て投資家が不利益を被るような状況になっているのか私には理解出来ません。
これについても即刻改めるべき問題であり、投資家がより有利な売買執行を行えるマーケットで取引出来るようにすることを証券会社の責務として負わせるべきではないかと私は思っています。】

上記制度化を目指すに当たり、PTS拡大を抑える要因の中でも取り分け「5%ルール」及び「10%ルール」というものを何とか変えて行かねばならないと私は強く思っています。

・5%ルール:『週刊東洋経済』より抜粋
「現行の金融商品取引法では、取引所外で株式の5%超を買い付ける場合はTOBを行う必要があり、PTSも取引所外と見なされる。PTSで株を買いうっかり5%を超えると、罰金が発生する。それが機関投資家にPTSを敬遠させているのだ。」(※2)
・10%ルール:『北尾吉孝日記』より抜粋
「PTSの運営において、取引量が対国内全取引所比の全売買代金の10%を越えてはいけないという制限がありますので、その時が最終章に向けた動きが本格化すると考えています。」

このように日本では夥しい数の馬鹿げた規制が未だに敷かれているわけですが、規制当局に変革の必要性を訴え続け改善させるという努力をして行かない限りは絶対に変わることはあり得ませんから、私は今後も提唱し続け兎に角変革を促して行こうと思っています。
これまでの金融制度改革への取り組みにより齎された成果の中から2点だけご紹介しますと、①株式会社日本証券クリアリング機構がPTSにおいて成立する有価証券の売買の債務引受けを昨年7月に漸く開始したということ(※3)、②私が「イコールフッティング」として主張してきた「くりっく365」など取引所FXと店頭FXの税制一本化が来年1月からなされるということ、が挙げられます(※4)。
上記②に関しては昨年12月の『日本税制の諸問題』と題したブログでも下記のように指摘した通りですが、為替においても愚かな規制が沢山あることから、これまで私は様々な規制を撤廃すべく随分と動いてきたわけです。

【今月16日に閣議決定された「平成23年度税制改正大綱」によれば、『現在、総合課税としている店頭FX取引に係る所得について、「くりっく365」など取引所FX取引に係る所得と同様に、20%の申告分離課税とした上で、両者の通算及び損失額の3年間の繰越控除を可能とする』ということになりましたが(※5)、これは私がずっと主張してきたことです。
要するに同じ外国為替証拠金取引をしているにも拘らず、取引所取引に係る所得であれば申告分離課税が適用され、店頭取引に係る所得であれば総合課税が適用されるというような事は余りにも馬鹿げているということです。
更に言えば、例えば株式会社大阪証券取引所は民間企業として既に公開しているわけで、そのような状況において取引所取引を「公的」なものであるかのように扱い、店頭取引との間に差異を設けるという事自体が可笑しいのです。
従って、このような意味において私はこれまでずっと「イコールフッティング(競争を行う際の諸条件を平等にすること。例えば、同一産業の中のある企業だけに認められた優遇措置を廃止するなど。)」ということを主張してきたわけですが、今回上述したような改善がなされたことは大いに喜ばしいことであると思っています。】

上述したような数多の弊害に対する変革が実現されるならば、東証のシェアというのは一挙に奪われて行くことになるでしょうし、今でもジャパンネクストPTS及びChi-X JAPAN PTSは双方2~3%程度ずつのシェアを持っており、東証の4~6%程度を既に食ってきているのです。
こうした私設市場の動きが齎す東証へのダメージを例えて見ますと、これまでは蚊が刺す程度のものでしたが、現況においては蜜蜂が刺す程度のレベルにきており、そして、これから上述したような様々な変革がなされて行くならば、蜜蜂が刺すどころの騒ぎではなくなってくるでしょう。
即ち、蜜蜂に刺されていたものが次第に雀蜂に刺されたような状況に段々と陥って行き、そして、更なる致命的な大ダメージにより東証が窮地に追い込まれることになって行くのは時間の問題なのです。
凡そ3年前の『国内証券取引所の再編成』と題したブログでも下記の通り米国証券取引所の歴史というものを述べましたが、The Nasdaq Stock Market, Inc.についてもECN大手のInstinet Group Inc.の買収に動いたわけで、日本においても法制度面における上記観点からの整備がなされるならば尚更ですが、何れにしても次のステージとして業界再編成というのが見えてきています。

【米国の証券取引所を見ますと、いわゆるPTS(Proprietary Trading System、私設取引システム。米国ではATS: Alternative Trading System、ECN: Electronic Communication Networkとも呼ばれる)が証券取引所と合併する中で変化が起こりました。例えばNew York Stock Exchange, Inc.とATSの代表格であったArchipelago Holdings, Inc.の合併のように、証券取引所のシステムの進化と密接に結びついた形で再編が行われました。】

上記再編成の流れというのは大きく言って次の2つのこと、グローバルな流れとドメスティックな流れを指しています。
先週掲載された「東証が大証にTOB提案 大証は拒否の構え」という記事にもあるように、今東証と株式会社大阪証券取引所(以下、大証)は擦った揉んだしていますが、年度内にもあり得ると思われるのが東証自身の上場です。
東証が公開しバリューがつくとなれば、どう考えて見ても大証とのバリュエーションの差は非常に大きくなるわけですから、大証株主をはじめ大証自身も経営統合への抵抗感が高まってくるのではないかと考えています。
従って、そう簡単には両社の統合問題が前進して行かないという中で、躍進するPTSに狙いを定め、まずはそこを組み入れるということを考えるのが次のストーリーになってくると想定しており、その文脈において業界再編成というものが起こってくるというように私は見ています。
そして、SBI証券は「SOR注文(複数市場から最良の市場を選択して注文を執行する形態の注文)」という形で先月27日から段階的にジャパンネクストPTSに参画しているわけですが、この動きは所謂ネット証券会社に対し非常に大きなインパクトを与えるのではないかと思っています。
即ち、これまでのネット証券会社間の競争というのは、基本的には手数料競争が主たるものでしたが、今後はそうした世界ではなく、投資家の収益により大きなプラスのインパクトを与えるであろうSOR(Smart Order Routing)というものが恐らく主たる競争の源泉になるでしょう。
このSOR注文に加え、上述した通り大口のデイトレーダーの一部がアルゴリズム取引に似たような形のものを近い将来SBI証券を通じて再び出来るようになるわけですから、SBI証券の業界における磐石な地位は更に強固なものになって行くわけです。
上述してきたことが今私が描いている戦略であり、これはSBI証券の圧倒的な勝利に繋がって行くものと認識しています。
2007年8月27日、夜間において開始されたジャパンネクストPTSは2008年10月に昼間に取引時間を拡大したわけですが(※6)、ナイトタイム・セッションに参画している株主企業の中でデイタイム・セッションにも参画したいという声を上げる所が今幾つか出てきています。
デイタイム・セッションへの参画自体については勿論結構なことですが、そのシステム対応のために半年~1年という時間を費やすことになると思われます。
それ故その意味では、正にこの半年、1年が勝負であると捉えており、上記企業等が全て参画してきた時にChi-X JAPAN PTSは最早ジャパンネクストPTSに太刀打ち出来なくなると考えています。
SBI証券がPTSに参入する前の4ヶ月間、業界No.1のポジションをチャイエックス・ジャパンに譲っていましたが、Chi-X JAPAN PTSを凌駕する最新高速システムの導入がなされ、上述したことを着実に実行しジャパンネクストPTSの競争力を更に高めて行けば、どの側面から考えてみても時間の問題で私どもがまた圧倒的にNo.1になるのは間違いないと私は思っています。

関連記事
日本税制の諸問題
国内証券取引所の再編成

参考
※1:2011年3月11日日刊工業新聞
※2:企業・産業−−欧州覇者「チャイエックス」が参入−−東証の独占を揺るがす私設市場の潜在力と限界
※3:PTSにおける有価証券の売買の債務引受け開始日の決定について(追加)
※4:FX、取引所と店頭の税制一本化 損失繰り越し メリットも
※5:店頭FXに20%の申告分離課税適用、証券優遇税制は2年延長 – 税制改正大綱
※6:企業情報・SBIグループ - SBIジャパンネクスト証券株式会社




 

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