北尾吉孝日記

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最近は「欧米経済の日本化」ということが盛んに論じられており、先月17日の日本経済新聞「日本化する欧米経済(大機小機)」においても「現在欧米で進行中の経済危機は、20年前の日本で起きたことの再現」であるというように指摘されています。
即ち、今年7月に『岐路に立つ日本』と題したブログでも下記の通り述べましたが、例えば、幾ら金融緩和を行なってみても全くと言って良いほど設備投資や民間消費が反応しないという所謂「Liquidity Trap(流動性の罠)」に陥った状況が長期に亘って続いているということであり、欧米経済というのは一種のデフレ状況というものに入ってきた可能性があるのではないかというように思える節もあります。

『下記抜粋にもあるように本ブログで何度も指摘している通り、こうして長期金利が低下して行くと通常であれば設備投資が出てくるものですが、日本は経済学で言う所謂「Liquidity Trap(流動性の罠)」というものに正に入ってしまっており、基本的にはどれだけ金利が低下しても設備投資が出てこないという状況です。

【これまで日本の国債市場においては長期金利が低位安定してきたわけですが、その要因の一つには実需というものが金利に対して感応度ゼロであるというのが挙げられます。
即ち、日本においては幾ら長期金利が低下しても設備投資は活発化せず資金需要というのは全くと言って良いほど発生してこなかったわけですが、その一方で同じ設備投資であれば有望視される中国等の新興諸国で実施して行くといった状況でした。】』

また、上記記事にもある通り「FRBが昨年11月に着手した量的緩和政策、いわゆるQE2は、ほとんど成果がないまま今年6月に終了した」というように私も見ていますが、「ウォール・ストリート・ジャーナル日本版」の『8月の米雇用は1年ぶりゼロ成長、失業率も9.1%で横ばい高止まり』という記事にもあるように深刻な雇用情勢について依然改善は見られません。
仮に今後先進諸国の殆ど全てが「日本化」して行くというような状況になれば、世界中に甚大な影響を及ぼすことになってくるのは言うまでもありませんが、そうした場合、例えば中国についても当然輸出が大変厳しい状況に陥って行くでしょうから、一層の内需拡大を実現して行かない限り世界経済は相当厳しい局面を迎えることになってくるでしょう。
従って、今正に全先進国は「日本化」しないよう努力すべきであると思いますし、日本も日本で何時まで経ってもデフレからの脱却すら出来ないというような状況ではお話になりません。
こうした状況から脱却するには成長戦略を如何に打ち出すのかがキーになるわけですが、特に日本の場合は大震災からの復興といったものと絡めながら、どのような新成長戦略を打ち出し12四半期マイナスが続く需給ギャップ(2011年4-6月期:マイナス3.7%、年換算で20兆円程度の需要不足)を縮小して行くのかというように取り組んで行かねばなりません(※1)。
今回の民主党代表選を経て小生の予言通り野田佳彦氏が第95代首相に就任したわけですが、前々から復興増税というものを提唱してきた人物であるだけに成長とは正反対の方向に進んでしまわないかというように私は非常に危惧している部分があります。
勿論、「復興増税により国民の購買力が減じられても、徴収された税金が被災地域において需要を増やすということに投入されるのだから、それ程大きく減じられることはない」という類の議論もあるのかもしれませんが、やはり多くの国民の購買力低下に繋がる所得税や消費税、あるいは法人税といったものの増税を今というタイミングにおいて決して実施すべきではないと私は強く思っています(※2)。
先月26日に『終焉に向かうパックス・アメリカーナ』と題したブログでも指摘した通り、現在のステージというのは成長戦略を徹底的に推し進めて行くべきところであり、経済が成長して行けば税収の自然増に繋がるという部分が齎されるわけですから、今後発生してくる復興需要というものを如何に経済成長に生かして行くのかを考えるべきでしょう。
その成長戦略において重要な位置を占めるTPP(環太平洋経済連携協定)という観点から今回の組閣を見てみますと、野田総理や外相に起用された玄葉光一郎氏は「経済連携の推進に前向き」とされていますが(※3)、その一方で『けん引役となるはずの経済産業相に就任した鉢呂吉雄氏は農協出身で衆院農林水産委員長も務めた「農水族」』であり、更には「早期の交渉参加に慎重な姿勢を鮮明」にする鹿野道彦氏が農林水産相に再任されるというように両派併用といった具合です。
これはTPPに限ったことではなく、今回の政府・民主党の新しい陣容においてはあらゆる部分で兎に角互いに牽制し合うような形がとられており、中和することで問題化させないことを企図したと思われる布陣となっています。
例えば、「若手議員や小沢一郎元代表、鳩山由紀夫元首相のグループに根強い反対論」がある増税という観点からも言及しますと(※4)、党の要である幹事長には小沢氏に近いとされる輿石東氏を、大幅な権限強化が打ち出された政策調査会長には「当面の増税に慎重な前原氏」を起用したわけですが、その一方で財務相に安住淳氏を、経済財政担当相に古川元久氏を置き「増税への布石」も打つといった具合で正に中和路線というものになっているのです(※5)。
従って、野田内閣というのが「党内融和」イコール中和路線というものを徹底して民主党内部からの崩壊を避けようとする余り、結局何一つ成果を残すこと無く終わりを迎える内閣になってしまうのではないかというように私はこの点についても少し危惧しています。
勿論、今回これ程までに「ノーサイド」人事を徹底しているのは、菅前内閣において党内から出た多数の離反分子が野党と結託して内閣不信任決議案を叩き付け、場合によっては可決されるという可能性が非常に高まった一事があったことに因るのでしょう(参考『信なくんば立たず~菅内閣不信任決議案を巡って~』)。
唯、「ノーサイド」は結構ですが、やはり決めて行かねばならぬことは相手を説き伏せてでもきちっと決めて行くという姿勢が絶対的に必要ですから、そういう意味では今のような中和内閣においては野田総理自身のリーダーシップというものが非常に大事になってくるわけです。
目先の事柄だけでなく中長期的な国益も考えて、今やるべきことを遅れずに実施して行くべく、野田総理が強い指導力を発揮されることを切に願っています。

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参考
※1:4~6月期の需給ギャップ、20兆円の需要不足 デフレ続く
※2:復興増税、期間20年超に延長も 税負担軽減へ検討
※3:野田内閣:TPP 「農水族」大臣、調整難しく
※4:2011年9月6日日本経済新聞朝刊
※5:日経ヴェリタス第182号




 

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