北尾吉孝日記

『岐路に立つ日本と世界』

2012年1月20日 18:35
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本日の東京外国為替市場では「ユーロが対主要通貨で上昇し、対円では約2週間ぶりに一時1ユーロ=100円台を回復」しているわけですが(※1)、これまでも時々指摘してきたようにユーロを取り巻く環境は年初から非常に激しく動いており、波乱の年を予想させるような展開になってきています(下記参照:①2012年1月11日北尾吉孝日記『ユーロ圏の将来4』、及び②2012年1月17日ウォール・ストリート・ジャーナル日本版「S&P、欧州金融安定基金(EFSF)長期債も最上級から格下げ」より抜粋)。

①【一昨日の「ウォール・ストリート・ジャーナル日本版」にも「円、対ユーロで一時11年ぶり高値」という記事がありますが、ユーロは年明け早々から円に対してドルに対しても大変な暴落をしています。
対ドルで1年4カ月ぶりの安値を付けたユーロについては1ユーロ=1.2ドルまで売られるのではないかといった話も出てきており一体どこまでユーロ安が進行するかという状況ですが、また他方ではイタリアの銀行最大手ウニクレディトの株価が「株主割当増資の新株発行条件が大幅なディスカウントになると発表した前週4日以降、45.2%下落している」という状況でユーロを取り巻く環境は年初から非常に激しく動いてきています】
②『米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は16日、欧州債務危機の救済資金供給を担う欧州金融安定基金(EFSF)の長期債の格付けを最上級のトリプルA「AAA」から1段階引き下げると発表した。
(中略)今回の引き下げは、13日にフランス、オーストリア国債を最上級格付けからやはり一段階下の「AA+(ダブルAプラス)」に引き下げ,イタリアなど欧州7カ国の国債格付けも引き下げたため、予想されていた動きだった。
(中略)フランスとオーストリアが最上級格付けを失ったため、トリプルA国がわずか4カ国になったため、EFSFの資金調達で保証を受ける枠は以前の4510億ユーロ(約44兆円)から2710億ユーロに落ちて、その3分の2以上がドイツが保証するものとなった。』

他方「欧州ソブリン危機」が及ぼすネガティブインパクトが憂慮される世界経済について言えば、米国は最近発表される様々な経済指標を網羅的に見ていますと、住宅について未だ懸念される部分はありますが雇用や生産といったものはかなりの水準に回復しつつあり、経済は堅調に推移しているのではないかと見ています。
また中国についても「11年10~12月期のGDP成長率は市場の事前予想の平均(8.5%)を上回った」8.9%、「11年通年の成長率は前年比9.2%」ということですから(※2)、米中共に経済情勢は想定以上に上向いて行っていると感じています。
そして両国において今後焦点となるのは、a.米国:QE3(量的緩和第三弾)実施の有無、b.米国:大統領選挙に向けた動き、c.中国:金融緩和時代への突入の如何、d.中国:指導部の世代交代といった所でしょうが、中国について述べるならば、習近平新体制発足前に内需刺激策が講じられるかもしれませんし金融緩和の時代に入って行くと思われますから、マーケットに対してプラスに働いて行く要因が今後更に出てくるのではないかというふうに考えています。
そうした中で日本においては「消費税引き上げ問題」の行方というのが一つ重要になってくるわけですが、先週金曜日には野田総理が内閣改造を断行し「消費増税へ態勢強化」を図りつつ「衆院解散・総選挙で増税に関して信を問う可能性も示唆」するといった状況であり(※3)、「社会保障と税の一体改革」の中で未だに当該問題に対する熱心な議論がなされています(参考:2011年12月16日北尾吉孝日記『少子高齢化時代における社会保障制度の在り方』、及び2012年1月20日日本経済新聞「社会保障充実に「1%」 増税の使途確認、関係閣僚会合」)。
今回の内閣改造で岡田氏を要職に起用したことにより「小沢氏に近い議員からの消費税増税への反発を高める可能性」は当然あるでしょうし(※4)、国民においても当初の様相とは異なり今は過半数を超える人が消費増税に反対しているという調査結果もあるわけですから、そもそもその実現というのは困難を極めることになるでしょう(下記参照:2012年1月15日AFPBB News「消費税増税に反対多数、世論調査」より抜粋)。

『共同通信社(Kyodo News)の実施した世論調査によると、行政経費の無駄削減が実現しない場合には、増税すべきでないとの回答が79.5%に達した。
また、読売新聞社(Yomiuri Shimbun)の世論調査でも増税に賛成が39%だったのに対し、反対は55%に上った。朝日新聞社(Asahi Shimbun)の世論調査でも消費税増税に反対が57%だった。』

消費税増税に対する私の基本的な考え方については昨年11月のブログ『「大阪ダブル選」を終えての雑感』等々でずっと主張し続けてきた通りであり、財政再建を実現すべく増税自体は遅かれ早かれ必ず行わねばならないと認識していますが、上述したような世界経済の現況を考慮すれば、消費税増税などという多くの国民の購買力低下に繋がるようなことを今というタイミングにおいて無理矢理実現しようとするのは余りにもナンセンスではないかと思っています。
昨年11月に『ユーロ崩壊は時間の問題か』と題したブログでも指摘した通り、私見を述べるならば2%以上の実質経済成長率が実現されている中での消費税や所得税を含めたその他諸々の増税というのがあるべき姿ではないかというように私は考えています。
勿論、『租税負担率に社会保障負担率を加えた「国民負担率」を見ると(中略)経済協力開発機構(OECD)加盟34カ国のうち、算出可能な30カ国中で日本は7番目に低い』わけですから増税の余地は十分にあるのでしょうが(※5)、暗雲立ち込める欧州経済情勢や「消費税解散」により生じ得る政治的空白、あるいは昨年12月のブログ『見直されるか日本株』での下記指摘事項等に対して野田総理の思慮が働くのであれば、今直ぐに増税に踏み切る必要はないという判断を下して然るべきではないかと思うのです。

【日本という国は2005年から所得収支が貿易収支を逆転しているという状況で嘗てのように日本で製造した物を日本から輸出するという時代はある意味終焉を迎えており、海外で製造し海外から得られる金利や配当を拡大する中で経常収支のプラスを齎すというようなステージにあるわけです。
このように所得収支が経常黒字拡大を齎し(参考:【図解・経済】経常収支の推移)、そしてまた日本国債の95%程度が日本の銀行システムを中心とした様々な金融機関によって所謂個人金融資産を背景に日本国内で消化されているような国ですから円も買われているのでしょうが、そうした意味で言えば外国人投資家は「日本は大丈夫!」というふうに判断をしているのでしょう。】(参考:2012年1月12日日本経済新聞「11月の経常収支85.5%減 2カ月連続の貿易赤字響く」)

今後日本においては震災復興という大義の下で15~20兆円程度とも見られる多額の公的資金が「真水」として出て行くわけですから、今というタイミングにおいて最も重要なのは昨年8月『終焉に向かうパックス・アメリカーナ』というブログ等でも下記指摘したように発生してくる復興需要を生かして日本経済の浮揚を齎し、遂にはデフレ脱却へと如何に導いて行くことが出来るのかを考えることであって、今の野田総理のように解散総選挙で政治空白にも繋がり得る増税論を持ち出し執着するということではないのです(参考:2011年12月8日北尾吉孝日記『見直されるか日本株』)。

【私は今週火曜日に「現時点での増税は大反対です。増税論者は往々にして増税がもたらす経済成長へのマイナス効果(それにより税収が減る)を忘れがちです。先ず経済復興その後財政再建です。」とtweetしましたが、増税論者よる財政再建論というのは現況を不変として展開される傾向が強くあると言えましょう。
こうした考え方により大失敗したのが橋本龍太郎政権であって、下記の通り安倍晋三氏も私と同じような見解を述べていますが(※6)、橋本氏は財政再建の必要性を唱えて増税を実施し、折角浮揚し掛かっていた当時の日本経済を壊してしまったのです。

『日本では10年以上も深刻なデフレが続いている。震災による電力不安もある。こんな状況下で増税に踏み切れば、国民の消費マインドは冷え込み、企業は国外に逃げ出し、日本経済に甚大なダメージを与える。まさに自殺行為。経済が破壊されたら、復興も財政再建もあり得ない。
阪神大震災後の景気回復軌道にあった97年、橋本龍太郎政権は消費税増税に踏み切った。消費税収こそ当初増えたが、国民負担の増大で日本経済は腰折れし、所得税収と法人税収は激減した。この苦い教訓を忘れてはならない。』】

昨日の日本経済新聞記事「「社会資本」など17特会、11に削減 独法4割削減」にも下記記述がありますが、消費増税にどうしても踏み切るというのであれば議員歳費や議員定数の大幅削減等は当たり前のこととして、野田総理自身が野党時代に声高に主張していた所謂「天下り・わたり」というものの徹底廃止、即ちより大きな財源を生み得る無駄な独立行政法人の全廃を直ぐにでも実施すべきではないでしょうか(参考:YouTube「野田総理 マニフェスト 書いてあることは命懸けで実行」)。

『政府がまとめた独立行政法人と特別会計の改革案は身を切る行政改革に向けた一歩だ。だが、独法削減は4割にとどまり、目標の5割減は未達成。統廃合による歳出削減の規模も明示していない。消費増税の理解拡大につながるかは不透明だ。
(中略)独法には年間3兆円あまりの国費が流れ、17の特会の歳出規模は180兆円に上る。民主党は09年衆院選マニフェスト(政権公約)でこれらの改革により子ども手当などの主要政策の財源を捻出するとしていた。しかし、藤村修官房長官は19日の記者会見で「今回は新たな財源を捻出することが目的ではない」とした。』

今後の世界経済情勢は「欧州ソブリン危機」の行方という部分に大きく左右されることになるわけですが、本年好調が予想される中国やインド、あるいはTPP(環太平洋経済連携協定)絡みも含めて、これから大きく拡大し相互に活性化されて行くであろうアジア間貿易というもの次第では、欧州経済の落ち込みというのは大したことにはならない可能性もあるのではないかと考えています。
最後にもう一点簡単にコメントしておきますと、先週木曜日のブログ『2012年の「びっくり10大予想」と金融市場動向』等でも指摘したように恐らくこの2012年は債券から株式へお金が動いて行く時代になるのではないかと私は捉えており、永続するであろう将来のインフレに備えるという意味でも日本株を含め株式への資金流入が起こってくるのではないかと思っています(参考:2012年1月号選択『高まる「日本株再評価」の機運 「買い」に群がるヘッジファンド』)。
今週月曜日のウォール・ストリート・ジャーナル日本版記事にもあるように「16日午前の東京債券市場では(中略)長期金利の指標となる新発10年物の日本国債の流通利回りが低下(債券価格は上昇)し、一時、前週末より0.015%低い0.935%(中略)、約1年2カ月ぶりの低水準」を付けたわけですが(※7)、これから日本においては財政の積極的出動が民間の設備投資を減少させるという所謂「crowding out(クラウディング・アウト)」効果に関する側面もあり上記復興需要と相俟って金利を上昇させる方向で働くということになるでしょう(参考:2011年7月26日北尾吉孝日記『歴史的転換期における日本と世界』)。
そうした中で今後3~5ヶ月以内に金利反転が起こり得るというように私は見ていますから、仮に私が証券会社に勤務し顧客に投資戦略を伝える立場にあるならば債券先物を売るようにアドバイスすることでしょう(参考:※8/※9/※10)。
そして昨年1月『日本国債格下げをどう見るべきか』と題したブログ等でずっと指摘し続けてきたように、金利が上がり出せば債券価格が大暴落する危険性があって、その場合取り分け運用対象が無く国債漬けとなっている地方金融機関の業績ががた落ちとなり、日本の金融システムが大混乱に陥る可能性もあるわけですから、我々はそうしたことも深く認識しておくべきではないかと強く思っています。

参考
※1:ユーロ上昇、100円台回復 2週間ぶり
※2:中国、8.9%成長に減速 10~12月2年半ぶり低く
※3:野田首相が一体改革に「政治生命賭ける」 解散の可能性も示唆
※4:副総理に岡田氏、消費増税へ態勢強化、一体改革担当-野田改造内閣(3
※5:時事ドットコム:租税負担率
※6:増税しなくても被災地復興の策はある
※7:長期金利、一時0.935%=1年2カ月ぶり低水準―債券市場
※8:日本国債市場の暴落に賭ける投資家たち
※9:機関投資家、日本国債利回り上昇恐れつつ国内逃避=富国生命投資顧問社長
※10:【識者に聞く】イタリアの次は日本、ファンドが狙う国債売り崩し=中原圭介氏





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