北尾吉孝日記

この記事をシェアする

ご存知のように『野田佳彦首相が昨年末に訪中し、温家宝首相と「金融市場の発展に向けて協力を強化する」ことで合意した』わけですが(※1)、本ブログでは当該合意事項について関連記事を多く引用する形でコメントして行こうと思います(参考:「日中首脳会談で合意した金融市場発展のための合意」-1.日中間の取引の円・人民元の利用促進、2.円と元の直接交換市場の育成支援、3.人民元建て債券市場の育成支援、4.海外市場での人民元建て金融取引の促進、5.金融市場整備で協力を促進する作業部会の設置)。
まず「日本による中国国債の購入」については日本でも多数の報道がなされていますが(下記抜粋①~⑤参照)、仮に実現するとしても「日本の外貨準備高1.3兆ドルから見れば1%未満で、日本が現在保有している米国債やユーロ債残高のポートフォリオから見ても極めて小額なもの」ではあります(※2)。
「市場への影響を考慮し、少額でスタートして徐々に買い増していく方針」であり「G7をはじめとする先進国の中では、紛れもなく最初の出来事」ですから、「中国に次ぐ世界2位の外貨準備を抱える日本が、ドルに偏った運用の多様化に乗り出したと市場が受け止めれば、ドル相場の急落につながりかねない」といった見方もあるが、段階的に少しずつということですから、そこまで心配する必要はないと思っています(※2/※3/※4)。

①『国際通貨基金(IMF)によると、世界の外貨準備は9月末に前年比13.2%増の10兆1767億ドル。円は15.4%増の2060億ドルで、特に中国を含む新興国の保有が35.8%も増えた。通貨が判明している額に占める円の比率は3.8%で、05年3月末以来の高さとなった3カ月前とほぼ横ばい。6月末に60.3%と過去最低を記録したドルは61.7%に上昇。ユーロは25.7%と3年ぶりの低さとなった。』(※5)
②『日本の外貨準備は2011年6月末で1兆ドルを超えており、3兆ドルを超える中国に次いで世界第2位である。また米財務省によれば、11年8月末時点で、米国国債残高14兆ドルの34%は外国人により保有されているが、その外国人保有分のうち25%は中国、20%は日本が保有している。しかも中国はポートフォリオ分散化のため、米国国債の保有残高を少しずつ減らしているのに対して、日本は着実に保有残高を増やしている。』(※6)
③『中国では外国当局が中国国債を買う場合、中国人民銀行(中央銀行)の認可を得る必要がある。会談では日本側が人民銀への認可の申請手続きを始めることで合意。具体的な購入額は明らかにしていないが、最大100億ドル(約7800億円)相当になる見込みだ。』(※4)
④『日本による中国国債購入は、中国が進める人民元の国際化を後押しし、両国経済の関係を強める。
(中略)中国は、人民元を一定幅の水準に置くために、元売りの市場介入を繰り返し、世界一の外貨を保有している。その額は2011年9月末で3・2兆ドル(約245兆円)に達し、7割がドルとされる。
一方で中国は、日本への投資も進めている。
市場関係者が中国政府系とみるファンド「OD05 オムニバス」は、NECや三井物産などの大株主だ。大手証券会社によると、このファンドが出資する日本企業は、10年9月時点の148社(株式時価総額で1・9兆円)から、11年9月末は264社(同約3・2兆円)に急増した。
中国から日本への国債を含む債券投資残高は、10年末には1年前の約3倍の10・5兆円に達している。
こうした投資のため、中国が手持ちのドルを売って円に替えることが、歴史的な円高を増幅させている。
日本政府は、中国国債を購入して中国とは逆に人民元を買う流れを作り、円高を食い止めることを狙っている。』(※7)
⑤『国債市場が低迷している一部のユーロ圏内の国々や米国にとって、特にこの第5項目(日本政府による中国国債の購入)に関心を払わざるを得ないのは、日本に触発されて、その後続いて他の先進国や、または外国国債の保有高の上位ランキングの国々による中国国債への投資分散現象は出現するか否かである。もし雪崩現象が出現するとなると、自国の国債への国際購入資金の流入が更に細くなり、これはもはや単なるG20で合意した人民元の柔軟性云々ではすまされなくなるからである。』(※2)

次に「円・人民元間の直接交換市場の発展支援」や「両国間のクロスボーダー取引における円・人民元の利用促進」(※8)、あるいは「民間セクターによるオフショアでの人民元建、日本円建の金融商品及びサービスの提供への促進」及び「人民元建てと日本円建ての債券市場の創設(日本企業による東京または海外市場での人民元建債の発行、日本国際協力銀行の中国国内での人民元建パンダ債の試験発行)」等についても上述の引用記事を用いて指摘しますが(下記抜粋a.及びb.参照)、例えば仮に日本円が「主要通貨で初めて直接取引の対象となる」とすれば、ある意味非常にエポックメイキングなことである思いますし日中両国にとって非常に望ましいことではないかというふうに私は捉えています。

a.『中国の狙いはドルが仲介しない為替取引の実現。ドルを中心とする通貨体制に挑戦する中国の金融戦略の中で、日本円は主要通貨で初めて直接取引の対象可能性が出てきた。
(中略)ドル排除に向けた中国の動きは徹底している。1月17日にはアラブ首長国連邦(UAE)との間で、両国の通貨を中央銀行同士で交換するための取り決めに署名した。元建ての投資や貿易を促進するため、UAEが機動的に元を調達できるようにするのが目的だ。
同様の協定は過去1年だけで、パキスタン、タイ、カザフスタン、モンゴル、ウズベキスタン、ニュージーランドとの間で合意した。韓国とも同様の協定を拡充した。今後こうした動きはさらに加速する見通しだ。
(中略)中国がドルを外そうとする狙いは、米国の思惑とドル相場の変動が経済に与える影響を減らしたいという思惑が1つ。
(中略)一方、日本側にもメリットはある。ドルが常に介在する現状と違い、円と元を直接交換できるようになれば、邦銀主導で為替取引を進める余地が生まれる。今のところ、通貨としての使い勝手で元より円の方が勝っているからだ。為替取引が簡素化されることで、企業の貿易コストを軽減できる可能性もある。
環太平洋経済連携協定(TPP)や日中韓の自由貿易協定(FTA)など、アジアの新たな経済秩序の模索が始まっている。通貨問題はその行方を左右するポイントの1つ。』(※1)
b.『中国の対外貿易に於ける元建て決済の割合は、輸出入総額3.5兆ドルの約10%を占める。1年前は僅か1%に比べ、10倍増。来年は15%の3.7兆元になる見込み。
その中、日中間の今年の輸出入総額は、両国貿易史上初の3000億ドルを超える規模に達する見込みである。しかし、その6割は米ドルによる決済である。元→ドル→円、またはその逆方向の通貨決済は、両国にとって為替リスクを蒙る他、本国通貨の両替による財務コストも無視できない。
(中略)株式市場が低迷する日中両国の金融市場にとって、債券市場への新金融商品の投入によって活性化と規模拡大の好機となる。
中国の国内流通債券市場は、現在20.1兆元(約3.3兆ドル)の規模、アジアでは日本に次ぐ第2位。オフショア市場の香港とシンガポールでは国債の売買規模はそれぞれ10兆元(約1.5兆ドル)。円建てと元建ての共同債権市場を創出すれば、両国のみならず、両国の通貨を現に流通しているアジア域内のインフラ整備から貿易・サービス・投資の促進までの潤滑油ともなる。
日中両国の金融市場は、株式、債券などの一部の証券取引からスタートするものの、将来大口商品の先物取引等まで、地域内のセンター市場としてより大きな視野で育成すれば、やがて広域の証券取引市場のリーダーとして、日中両国のみならず、アジアや世界の金融市場の安定化と繁栄にも大きく貢献する存在となる。』(※2)

先月27日の人民日報記事「日本の人民元による対中直接投資が可能に」でも『商務部国際貿易経済合作研究院中国対外貿易部の金柏松副主任は、日本の中国国債購入や円と人民元の直接交換促進は「互恵の方向性」として好ましいと評価』しているようですが(※5)、元円直接取引をはじめ上記合意事項が実現されれば日中間の金融面におけるビジネスが大いに促進されますし貿易等にも当然プラスに働くわけで、日中両国にとって様々な側面で大変意義のあることではないかと思われますから、今後もそうした方向に進んで行けば良いというふうに強く感じる次第です。

参考
※1:2012年1月21日日本経済新聞「中国、ドル排除へ着々 元円直接取引構想の深謀
※2:2012年1月4日サーチナ『日中「金融協力パッケージ案」―「元」と「円」の共存共栄は?
※3:2011年12月25日ウォール・ストリート・ジャーナル日本版「中国国債購入で合意=円・人民元の貿易決済も促進―日中首脳会談
※4:2011年12月26日日本経済新聞朝刊「日中首相会談――日中、国債持ち合い、円・人民元利用を拡大」
※5:2012年1月12日ブルームバーグ「中国は円債3カ月ぶり買い越し、欧州懸念-英経由でも買い増しか(1)
※6:2011年11月28日日本経済新聞朝刊「成熟した債権国へ日本の条件(上)同志社大学教授林敏彦氏(経済教室)」
※7:2012年1月9日東京読売朝刊「[通貨大乱](5)中国マネー 膨張続く 人民元相場 管理に懸念(連載)」
※8:2011年12月25日外務省「日中両国の金融市場の発展に向けた相互協力の強化 ファクト・シート




 

(任意/公開)
(任意/非公開)

  • 小
  • 中
  • 大



Copyright © SBI Holdings, inc. All rights reserved.