北尾吉孝日記

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先週金曜日に「イランとイスラエル戦争しなければよいが。昔のイラクのクエート侵攻のときのきな臭さを感じる。今度はイスラエルから仕掛けるのかな。」とTwitterで呟き、また昨日のブログ『日米の金融市場動向と日銀の金融緩和強化について』でも下記文脈において所謂「イラン問題」に触れたわけですが、今私は「イラン・イスラエル戦争」勃発の危険性だけではなく米国によるイラン軍事攻撃の可能性をある意味非常に危惧しています(参考:Yahoo!ニュース・トピック「イラン核開発問題」)。

【ここにきてドル円相場は78円台半ばで推移しており日経平均株価も9200円を超えるような状況になっていますが(中略)、日本においては震災復興という大義の下で多額の公的資金が「真水」として出て行くわけですから、イラン問題や欧州問題が大事ならずに済めば、かなりの水準まで上昇してくるのではないかというふうに思っています。】

日本人的感覚からすれば、「結局そんな戦争は起こらないでしょう」というふうに思うのかもしれません。
しかしながら、例えば1990年8月のイラクによるクウェート侵攻が起こる前も日本の全報道機関、及び日本政府までもが戦争勃発の可能性について否定的見解を述べていたわけですが、同時期の欧米諸国の論調というのはそうしたものとは全く違っており、結果的にクウェート侵攻は現実に起こったという世界があるのです。
私は本ブログでも度々引用している『フォーリン・アフェアーズ・リポート』掲載論文を毎月欠かさず読んでいますが、今月号の「特集 緊迫するイラン情勢― 軍事攻撃、外交、それとも封じ込めか」にあるマシュー・クローニッグ(前米国防長官室ストラテジスト/ジョージタウン大学准教授)の論文「いまこそイランを軍事攻撃するタイミングだ―― 封じ込めは最悪の事態を出現させる」には下記の通り記されています。

『「イランのエージェントが、サウジの駐米大使を米国内で暗殺しようと暗躍している」。米政府がテヘランの動きをこう批判したのは2011年10月初旬。
(中略)イランによる暗殺計画が表面化する数年前から、ワシントンの専門家と政策決定者は「イランの核施設を軍事攻撃で破壊すべきかどうか」をテーマに議論を続けてきた。
(中略)イスラエルによる攻撃と湾岸戦争によってインフラを破壊されたイラクも、2007年にイスラエルに原子炉施設を破壊されたシリアも、その後、核開発を断念している。(中略)つまり、軍事行動によってイランの核開発プログラムを数年から10年程度先送りできるだけでなく、核開発を永久に断念させられる可能性もある。
(中略)アフガンとイラクでの戦争がやっと幕引きへと向かい始め、米財政が苦しい状況に追い込まれるなか、アメリカ人はさらなる紛争など望んではない。だが、イランが核開発に向けて急速な進展を遂げている以上、アメリカは最終的には「通常兵器による攻撃か、将来における核戦争の可能性か」のいずれかを選ばざるを得ない。』

要するに私が何を言いたいのかと言えば、米国という国は「核を保有するイランと対峙するのが良いのか、それとも核を保有する前に叩き潰して置くのが良いのか」に関し国として真剣に考えており、最終的には国連決議などというものも考慮せず上述の核インフラを破壊されたイラクやシリアと同じようにイランにも核開発を断念させるような軍事行動をとるかもしれない国であるという認識を我々日本人もきちっと持たねばならないということです(参考:2010年4月16日北尾吉孝日記『米国の核政策と核テロの脅威について』)。
米国では先ほど述べたマシュー・クローニッグのような人がストラテジストとして対イラン戦争に関し長期に亘って考え続けており、彼のような専門家が米国には他にも多数いるわけですから、そうした人達の発言を聞いたり執筆物を読んだりしていますと現在のイラン情勢について非常にシビアな見解を持たざるを得ないのです。
先月23日の「週刊ダイヤモンド」の「イラン情勢次第で200ドルも 原油高騰が日本経済に落とす影」という記事タイトルにもある通り、イラン情勢次第では原油価格は200ドルを超えるようなことになるかもしれず、世界経済に対して大変なネガティブインパクトを及ぼすこともあり得るわけです(下記抜粋a.~c.参照)。

a.『今のところ原油価格は大きな反応を示していないものの、実際、封鎖が実施された場合の影響は甚大だ。ホルムズ海峡は最も狭いところで幅33キロメートルしかないが、世界で消費される原油の約2割(日量1700万バレル)がここを通っている。封鎖されれば、それに加え、近隣諸国が余剰生産できる日量300万バレル強も大半が利用不能になるからだ。
その場合、「原油価格が2008年の過去最高値147ドル(WTI原油先物価格)を超え、150~200ドルに跳ね上がる可能性もある」(野神隆之・石油天然ガス・金属鉱物資源機構上席エコノミスト)と専門家は指摘する。』(※1)
b.『軍事戦略家や外交専門家の間には、海峡が封鎖されれば世界経済の混乱が数十年間続くとの懸念が広がっている。一方、原油の代替輸送経路の確保はほとんど進んでいないのが現状だ。
(中略)過去の事例を振り返っても、ホルムズ海峡封鎖がもたらす経済危機の大きさは想像できる。1990年8月、イラクのクウェート侵攻に伴って、世界供給量の約6.5%に相当する1日あたり430万バレルの原油供給が停止。世界の原油価格は1バレルあたり20ドルから2倍の40ドルに跳ね上がり、原油市場は大打撃を受けた。今回封鎖が実施された場合、影響の深刻さはクウェート危機を上回ると見られる。具体的には、供給が滞る原油量は約4倍、原油市場全体に占める供給減少量の比率は約3倍に及ぶ。
(中略)ホルムズ海峡の封鎖は、世界の原油市場にとって調整弁的な役割を果たしてきた供給国サウジアラビアからの輸送にも影響を与えるとの懸念が広がっている。
(中略)サウジアラビア原油の75%がペルシア湾経由で輸出されており、世界の供給不足を補う十分な量を同国からは確保できないおそれがある。』(※2)
c.『政府は核開発を巡って欧米諸国と対立するイランでの危機に備えて自衛隊による対処策の検討に入った。原油輸送路となるホルムズ海峡の封鎖を想定。
(中略)日本も84%を同海峡経由で輸入しており、野田佳彦首相は10日の衆院予算委員会で「ホルムズ海峡は日本にとって重要だ。何か起こったときの想定はやらなければいけない」と強調した。』(※3)

仮に200ドルを超えて行くようなことになれば、日本の「原子力発電所の停止に伴う火力発電向けの燃料輸入」コストは膨大なものとなるでしょうから、それが経常赤字に繋がり所謂「双子の赤字(財政赤字と経常赤字)」となって行く中で経常黒字により支えられてきた部分もある円が暴落して行く可能性があると私は見ています(下記抜粋①~④参照)。

①【対外通貨に対する為替レートを決定する要素は幾つかあります。一つ目は相対的金利の位置関係。二つ目は両国の財政収支の状況。三つ目は両国の経常収支が黒字なのか赤字なのか、それがどの程度なのか、また過去と比較して増加しているのか減少しているのかといった問題、あるいはその国が既に純債権国か純債務国かということ。四つ目は短期的な資本移動をもたらすなんらかの理由があるかどうかということ。幾つか挙げるとすれば、これらが考えられるかと思います。】(※4)
②『日本では、昨年3月の東日本大震災から11か月がたち、輸出企業の海外への製造移転が進む中、国内原発54基中51基のエネルギーをLNG・石油等で代替しており、貿易赤字が定着し始めた。』(※5)
③『イラン制裁など中東不安を背景にした原油価格の高止まりも、燃料の輸入コストを膨らませる。野村証券は1バレル110ドルの原油高が続くと、日本の貿易収支は12年も3.2兆円の赤字になると試算する。』(※6)
④『2011年の経常黒字は9兆6289億円となり、1996年以来の10兆円割れとなった。
(中略)4月以降全ての原発が停止する可能性があり、引き続きエネルギー輸入の増加傾向が予想されている。
(中略)みずほ総研の試算では、原発が全て停止し、原油やLNGの輸入増に加えて価格が毎年1バレル5ドル程度上昇すれば、貿易赤字が恒常的に2兆円弱拡大する。さらに、円高が毎年5%ずつ進行すると、輸出競争力も低下するほか、所得収支の受取額が大きく目減り、10年以内に経常赤字に転落するとみている。』(※7)

対イラン戦争が勃発しないことを私も祈ってはいますが、そうした事態に対する想定についても常に頭の片隅に置いておかねばならないというふうに私は考えています。

参考
※1:2012年1月23日ダイヤモンド「イラン情勢次第で200ドルも 原油高騰が日本経済に落とす影
※2:2012年2月7日ナショナルジオグラフィック ニュース「ホルムズ海峡封鎖、代替輸送経路は?
※3:2012年2月16日日本経済新聞「政府、イラン危機へ対処検討 ホルムズ海峡に海自派遣視野
※4:2008年12月26日北尾吉孝日記『今後の為替レートの決定要因
※5:2012年1月26日日本経済新聞「空洞化と電力危機 輸出立国の土台崩れる 黒字が消える(上)
※6:2012年2月13日読売新聞「足元の相場は、円・ドル・ユーロの順に軍配か?
※7:2012年2月8日ロイター「〔焦点〕経常黒字10兆円割れ、エネルギー・円高・高齢化が招く赤字転落リスク




 

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