北尾吉孝日記

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一昨日のウォール・ストリート・ジャーナル日本版記事にもある通り「オバマ大統領は13日発表した総額3兆8000億ドル(約295兆円)規模の2013会計年度(12年10月-13年9月)の予算教書で共和党の政策を批判した」わけですが(※1)、「11月の大統領選をにらんで富裕層に対する増税」というものをオバマ大統領もいよいよ明言し始めました(下記参照:2012年2月14日ウォール・ストリート・ジャーナル日本版「富裕層向け増税など提案 予算教書でオバマ大統領」より抜粋)。

『大統領は予算教書で、ブッシュ前大統領時代に導入された期限付き所得減税について、年収25万ドル超の世帯や、年収20万ドル超の個人については、予定通り2012年末に失効させることを支持した。高額所得層に対しては項目別税控除を制限する。
さらに、最高所得税率を現行の35%から39.6%に引き上げ、13年度から実施することを提案した。また、高額所得層の長期キャピタルゲイン税を20%とし、高額所得層については配当所得を通常の所得として課税する。現在は配当、キャピタルゲインとも税率は15%となっている。
相続税に関しては、350万ドルの控除後最高で45%と、2009年水準に戻すことを提唱した。現在の相続税の最高税率は35%。ヘッジファンド・マネジャーやプライベートエクイティー・ファンドが挙げる利益については、通常の所得として課税する。現在は成功報酬と位置付けられ、15%のキャピタルゲイン税が課せられている。オバマ政権は、キャピタルゲインから通常所得への税科目の移し替えで、今後10年間に130億ドルの増収になると見込んでいる。
(中略)大統領は、年収100万ドル(約7800万円)超の富裕層の所得税を30%に設定するとの富豪の投資家ウォーレン・バフェット氏の提案への支持を改めて示した形だ。』

資産課税の強化」については日本でも『橋下徹大阪市長率いる地域政党「大阪維新の会」がまとめた次期衆院選公約「維新八策」』原案で示されていることですが(※2)、昨年11月のブログ『格差広がる不平等な世界』でも下記指摘したようにグローバリズムと技術的進化といったことによって所得格差がどんどん広がり中間層が存在しない『金持ちと貧乏人』という両極端な世界になって行くならば、「所得全体の4分の1を稼ぎ、富の40%を占める」上位1%の富裕層に対して課税強化をして行くのがベストチョイスであるという発想が世界中で出てくるのは当たり前ではないかというふうに私は考えています(※3)。

<所得格差の拡大が何故起きたのかについては上述したように様々な観点から諸説ありますが、大きく言って次の4点が特に重要ではないかと私は認識しています。
第一にグローバリゼーションの進展が雇用動向に及ぼす悪影響、即ち本ブログでも幾度も指摘してきた通り、今日本でも益々進行している産業の空洞化が挙げられます(参考『進む産業空洞化に対する懸念~家電「純輸入国」に転じた日本~』)。
つまり、グローバリゼーションが進展する中で雇用の機会は奪われ、近代経済学にある「生産要素価格均等化法則-グローバル資本主義体制の一要素である自由貿易が貫徹されていれば生産要素価格は均等化されるという法則」に沿う形で賃金というのは低い方に鞘寄せされ減少して行くことになるのです(下記参照:2009年7月3日北尾吉孝日記『資本主義の将来』より抜粋)。

【例えば生産要素価格の中で最たる人件費を見ますと、中国の人件費は日本より遙かに安いので日本と中国で同じモノを作れば、輸送費を考慮したとしても当然ながら中国のモノの方が安くなります。従って、中国のモノが買われて日本のモノは売れなくなり、日本の雇用は失われて行きます。このような状況が進行する中で日本企業は生産拠点を中国に移転しますので日本の雇用自体が減少して行く一方で、中国では雇用が多少増加して行きますので中国の人件費が上がって行きます。即ち中国(低い方)の人件費が多少上がり日本(高い方)の人件費が下がると言う中で、生産要素価格(この場合では人件費)は低い方に鞘寄せされた形で均等化されて行くと言うことです。】

他の3点については上記記事においてJohn Martin氏も同じような指摘をしていますから、以下引用する形でまずは述べて行きたいと思います。

②:『情報通信分野などでの技術の進歩は、高度なスキルを持つ労働者に有利に作用してきた。高度なスキルを持つ労働者とそうでない労働者の所得格差拡大は、こうした事情を反映している。』
③:『規制改革や制度改正で雇用機会は増えたが、低賃金労働者が流入してきたため、賃金格差は一段と広がっている。多くの国で増えているパートタイム雇用では、労働契約が非定型であったり、団体交渉による協定が適用されなかったりすることも、所得格差の拡大につながった。』
④:『賃金以外の所得で不平等が一段と進行している。特に顕著なのは資本所得で、OECD加盟国の3分の2では、資本所得が労働所得以上に格差拡大を助長している。』

③について補足しますと、本ブログでも度々触れてきた通り、特に日本などは規制改革や制度改正を実施しアルバイトや派遣、契約社員等の「非正規雇用」を大幅に増やして来ましたが、所謂「同一労働同一賃金」というような形ではないため格差というものが広がって行ったという部分もあるのではないかと私は考えています。
また④については、昨今のようなマーケット状況下では必ずしもそのように言い得ない側面というのも勿論あるとは思いますが、持てる者が益々金持ちになって行くという傾向が出来ており社会を硬直化させてきているという事実もまたあるでしょう。>

例えば、先月25日のウォール・ストリート・ジャーナル日本版記事「ロムニー氏の所得税率は14%」でも下記の通りロムニー氏に関する話題がありましたが、要するに所得に対する課税のみならず資産そのものや当該資産が齎すキャピタルゲイン、あるいは遺産相続金等に対するある意味での課税強化というものが今世界中で注目されているわけです。

『米共和党の大統領選候補者選びに出馬しているロムニー前マサチューセッツ州知事の選挙事務所が24日公表した2010年の同氏の納税内容によると、所得の大部分は投資で得たもので、約300万ドル(2億3000万円)の課税控除対象の慈善寄付を調整した実質課税率は14%だった。
同年の所得は2170万ドルで、連邦所得税は300万ドルとなり、寄付額298万ドルをわずかに上回った。
(中略)総所得のうち1260万ドルがキャピタルゲイン、330万ドルが課税対象金利、490万ドルが普通配当金、残りが事業所得や税還付、その他の所得だった。
(中略)長期投資のキャピタルゲイン・配当収入の課税率の最高は通常15%で、普通の給与所得に課される最高税率の35%よりはるかに低い。投資促進を狙ったブッシュ減税の一環として導入されたこの優遇税制が、ロムニー氏とその夫人の実質税率が15%程度にすぎない基本的な理由だ。』

巨額の赤字を抱え危機的な状況にある米国財政を立て直して行く唯一の道は恐らく富裕層に対する課税を様々な形で強化して行くということではないかと思われますが、今後そのような観点から世界中で議論がなされ、殆どの国においてそうした方向を選択するようになるのではないかというふうに私は思っています。
即ち、選挙で勝つ確率が高くなるのは当然のことながら「1%の富裕層を批判する」99%のポピュリズムに訴えることですから、ある意味における資本主義の限界点に近付きつつある現況というものをそうした形で変革して行こうということなのではなかろうかと思います。
それから、例えば今月号の『フォーリン・アフェアーズ・リポート』にあるフランシス・フクヤマ(スタンフォード大学シニアフェロー)の論文「歴史の未来―― 中間層を支える思想・イデオロギーの構築を」でも下記の通り指摘されていますが、これまで高福祉高負担国家と言われていた所も段々と福祉国家論を成り立たせるのが難しくなってきています(参考:2011年12月16日北尾吉孝日記『少子高齢化時代における社会保障制度の在り方』)。

『福祉国家は巨大化して官僚的になり、柔軟性を失い、社会サービスを担う公務員組合の囚われ人になっている。より重要なのは、先進国社会が高齢化しているために、福祉国家モデルが財政的に持続不可能になっている』

そういう意味では今月7日のロイター記事「コラム:中国経済の成長力低下にIMFが言及、高齢化も制約要因」でも下記述べられている通り、先進国という域に完全に達しているわけではない中国という国が未だ十分な高福祉も実現されていない中で意外と早いスピードで高齢化が進むというある意味異常なケースにこれからなってくるわけです。

『中国経済の制約要因として挙げられるのが、急速に進む人口の高齢化だ。国連の予測によると、中国の生産年齢人口は2015年に10億人でピークを迎え、その後は緩やかに減少していく。
中国では、生産年齢人口が1980年の6億人から2010年に9億7000万人へと3億7000万人も増加。豊富な労働力で高成長が享受できるいわゆる「人口ボーナス」の恩恵をフルに受けてきた。中国全体の都市化による製品需要の増大もあいまって高成長の原動力になってきたが、足元で人口ボーナスの利点は減少し、あと3年でなくなる。気づかないうちに中国経済の”老化”が始まっている可能性がある。』

中国共産党体制下において、社会的安定を保ちながら上記課題に対しどう処して行くことが出来るのかは、習近平新体制における重要なテーマの一つになると私は捉えています(参考:2011年11月25日北尾吉孝日記『中国民主化リスク』)。

参考
※1:2012年2月14日ウォール・ストリート・ジャーナル日本版「オバマ大統領、予算教書で共和党との対決姿勢鮮明に 11月選挙にらみ
※2:2012年2月14日時事ドットコム『「維新八策」に動揺=高いハードル、解散戦略影響も-与野党
※3:2011年10月24日日本経済新聞朝刊「政策の偏り、デモ招く(グローバルオピニオン)




 

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