北尾吉孝日記

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先週月曜日に掲載されたインタビュー記事「よみがえるか日本の電機 いでよ信念の経営者 稲盛和夫氏に聞く 中途半端な決断、病巣に」(日経産業新聞 Editor’s Choice)には、日本の電機産業に対する正に正鵠を射た稲盛さんの様々な御指摘が載っています。
その中で稲盛さんは「このままでは日本のデジタル産業は没落していく。(中略)意識を変える最後のチャンスでもあり、今なら再生も可能だ」とも仰っていますが、やはり基本的には世の中の流れというものを、私は一つ考えねばならないというふうに思っています。
即ち、日本の電機産業は過去の成功体験に胡坐をかき、世界に起こりつつあった環境変化というものを十分に掴み切れていなかったが故に、結果として今様々な問題が色々なところで現出してきているということなのだろうと思います。
嘗てダーウィンの「進化論」に触発されたハーバート・スペンサーという哲学者が「社会進化論」を唱え、「適者生存(Survival of the Fittest)」という言葉を作りましたが、このthe Fittestになりサバイバルゲームを勝ち抜くためには、次の2つのことが重要になると私は考えています(以下、2008年9月18日北尾吉孝日記『適者生存』より抜粋)。

【一つは、環境変化を先取りすることです。恐竜はまさに変化を先取り出来ず、氷河期に入って絶滅するしかなかったわけですが、対照的にアブラムシは今日まで生き残っています。つまり、環境変化に耐えていこうとすれば、変化を先取りし、備えていくしかないということです。『韓非子』の中に、「事異なれば即ち備え変ず」という言葉があります。状況が変わってくれば、それに対する準備も当然変わらなければいけません。昔の成功体験に安穏としていると生き残れないのです。
そのような環境変化の中で、私どもはどのようなことをしてきたのかと言えば、例えば2005年の国際収支統計において、所得収支が貿易収支を上回った瞬間に、貿易立国の終焉を認識し、投資活動の主力を海外に移すことを決断しました。(中略)何事にも全て兆しがあります。『韓非子』に「端を見て以って末を知る」という言葉がありますが、その2005年の微かなる兆候に気がつかなければ、変化への対応は出来ないのであります。
生き残るためのもう一つの手は、変化を受け止め、変化に順応し、変化の中で生きていく方策を見つけることにあります。(中略)変化に順応し、変化の中で生きていく方策を見つけない限り、このサバイバルゲームを勝ち抜けないのであります。】

上記記事で稲盛さんも指摘されている通り、トップが代わりトップの考えが従業員一同に浸透する中で変わって行くという部分も勿論あるとは思いますが、他方で余りにも大きな変化が電機業界に押し寄せ、その結果として日本勢が国際競争の中でどんどんと敗れて行っているという厳然たる事実もあるわけです。
そうした流れを今から食い止めるのは最早too lateで不可能に近いのではないかと私には思われ、銀行が幾ら追加融資を行おうとも結局時間の問題で中国企業に飲み込まれて行かざるを得ないのであろうと見ています。
『孫子』の中にも「夫れ未だ戦はずして廟算するに勝つ者は、算を得ること多きなり」とありますが、戦の勝敗というのは廟(びょう)で作戦会議を行う時に既に決しているわけです(※1)。
即ち、あらゆる状況を読み如何に作戦を立てるのかが全てであって、例えば諸葛亮孔明のように巧妙な作戦を立てれば、あれだけ軍事力に大差があった「赤壁の戦い」も勝ち戦になって行きますし、あるいは「桶狭間の戦い」で織田信長が今川義元を破ったというのも、正にそういうことなのです。
やはり打ち手というのは戦いの前にきちっと打つということが必要であり、もっと早くに打たねばならなかった打ち手を打ってこなかった結果が、今日本の電機産業が直面する危機となって現れているということです。
我々は好調な時に胡坐をかくのではなく、そうした時により付加価値の高い新しいものを次々と創って行かねばなりません。
そうでなければ、近代経済学にある「生産要素価格均等化法則-グローバル資本主義体制の一要素である自由貿易が貫徹されていれば生産要素価格は均等化されるという法則」に沿う形で人件費等のコストが低い方に鞘寄せされ、最終的には滅びて行かざるを得ないというのが言わば資本主義の法則であるからです(※2)。
そうした弱肉強食の世界が資本主義の一面であるからこそ、私は我々の企業理念の中に『セルフエボリューションの継続(経済環境の変化に柔軟に適応する組織を形成し、「創意工夫」と「自己改革」を組織のDNAとして組み込んだ自己進化していく企業であり続ける)』という言葉を入れているわけです(※3)。
過去の成功体験に溺れることなく、常に自己否定をし、自己変革を遂げ、そして自己進化をし続けて行かねばならず、そうしたものを企業体質として持って常に改革し続けられるということが、企業存続の条件として非常に大事なのであろうというふうに私は思っています(※3/※4/※5)。

参考
※1:古今名言集~座右の銘にすべき言葉~「孫子-始計[2]
※2:2012年2月17日北尾吉孝日記『中間層への富の再分配を狙う税制改革
※3:2011年4月4日北尾吉孝日記『2011年度入社式訓示
※4:2009年4月2日北尾吉孝日記『改革の難しさ
※5:2010年9月24日北尾吉孝日記『「求められる企業形態」に関する私の考え方




 

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