北尾吉孝日記

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「安倍ノミクス」に対しては、例えば「昭和恐慌時に高橋是清蔵相が国債の日銀引き受けを実施したことが戦後のハイパーインフレにつながったとして、今回の物価目標政策に警告を発する人もいる」ようですが、日本のみならず世界的にも様々な国でそうした教訓を得て中央銀行の独立性というものは保たねばならない、という共通理解が歴史的に規定されてきたことは事実です(※1/※2/※3)。
唯、今「安倍ノミクス」と称されているものは、実際に日銀が国債を引き受けるか否かというよりも、寧ろ『兎に角「期待」に影響しよう!』『兎に角「気」を変えよう!』というところに一つのポイントが置かれていているわけです
何も安倍政権はハイパーインフレを生じさせようなどということも考えてはいないでしょうし、また財務省にしてみてもハイパーインフレによる政府債務の実質的価値の大幅低下といったことを狙っているわけではないでしょう。
従って今考えるべきは、昨年最後のブログ『「安倍ノミクス」の懸念点~中央銀行の在り方に変化が見える中で~』でも指摘した通り、2%に設定したインフレターゲットについて、そこまで持って行くという形で上手くコントロールすべく、その匙加減を如何にして行くかということではないかと思います。
また財政政策という観点から述べますと、私は今の局面では寧ろ積極財政に打って出るべきだと考えてはいますが、これまでも各所で散々指摘されてきた通り、積極財政とは言え闇雲にコンクリートに資金を投下するというのは論外です。
例えば、十分な需要を見込み得ない新幹線事業に対し多額の予算を計上するなどというのは以ての外ですが、その一方で今こそ重点的に取り組まねばならないのが防災・減災に対する投資です。
此の間の所謂「笹子トンネル崩落事故」は大変な事態となってしまったわけですが、今後は尚一層、様々な所で老朽化してきているインフラを徹底的に調査し補強して行かねばなりません(※4)。
一昨日閣議決定された2013年度予算案においては、例えば「高度経済成長期に建築したトンネルや橋などの維持・管理では、357億円の上乗せとなる2515億円を計上」したようですが、そうしたところに重点的に予算配分すべきであって、何でも彼んでも行け行けドンドンで金をばら撒けば良いというものではなく、此の辺りを履き違えないようにして貰わねばなりません(※5)。
それからもう一つ、昨年も『「エルピーダ経営破綻」と時代の潮流』や『「ルネサス経営再建問題」について』というブログで指摘したことですが、要するに「ポスト・インダストリアル・ソサエティ(脱工業化社会)」へ向かうに相応しい新たなる産業を興し育てて行くべく、日本の新たな産業構造というものを模索し税金投下の在り方を再考せねばなりません。
私見を述べるならば、円安によって輸出が振興出来るとも思いません。なぜなら円安であるか否かに拘らず、時代に取り残され国際競争力を喪失した企業もあるわけで、そのゾンビ企業を幾ら梃入れしようとも最早不可能でありましょう。
例えば嘗て鉄鋼業界において、ブリティッシュスチールからUSスチール、そして新日本製鐵へと覇権が移行したように、国際競争力というのは経済的コストも全て含め、その時その時の企業を取り巻く環境によって決まってくるものです。
従って、為替という条件だけが変更されたところで、製品開発能力等に深刻な問題を抱えるゾンビ企業の再起は図り得ないでしょうし、更に言うと今メジャーな日本の輸出企業は生産拠点の殆ど全てを海外に移していますから、為替がどう動こうがほぼ関係ないこととも言えるわけです。
以上、『「安倍ノミクス」を巡る諸論点』と題しいくつかの観点から論じてきましたが、上述したような事実を正確に調べ上げ、それを前提とした主張を行うという形でなければ、全く以てナンセンス極まりなく無意味で無責任な議論にしかならないと私は考えています。

参考
※1:2013年1月28日四国新聞社「インフレ恐怖症
※2:2012年12月10日ロイター「再送:〔総選挙こうみる〕財政危機説は嘘、アベノミクスで株価急騰=カブドットコム証 山田氏
※3:2012年12月6日MONEYzine『短期的には日本株急騰か 「アベノミクス」を想定した先10年の投資施策
※4:2012年12月12日北尾吉孝日記『日本官僚制の問題点~東電福島原発事故と笹子トンネル崩落事故~
※5:2013年1月30日日本経済新聞「公共事業が大幅増、税収では所得税など伸びる 13年度予算案




 

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