北尾吉孝日記

『日米相場展望』

2013年3月11日 10:31
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先週火曜日、新発10年物国債利回りが「一時0.585%まで低下し、2003年6月以来約9年8カ月ぶりの低水準まで下がった」わけですが、日銀が大金融緩和を実施すると言っているのですから、当然ながらそれを読んで長期金利は下がります。
問題は「一時的に0.6%を割った長期金利は一体どこまで下がって行くのか。株式会社りそな銀行が不良債権問題で揺れた03年時のように0.5%を割り込むような局面は到来するのか」ということです。
他方、長期金利が低下するということとインフレ率が2%に達するということは相矛盾しているわけですが、一体この矛盾や如何にということもまたあります。
と言いますのも、インフレ率が上がるということは、資金需要も発生して行き設備投資が起こり、消費も活発化してくるという状況下、基本的に長期金利は上がって行くのが常識だからです。
私が見るに、先ず今の金利の動きというのは未だ実体経済を反映した動きではなく、その本となっているのは所謂「気」ではないかということです。
「どうも日本経済は元気になりそうだ」というのが片一方であり、「次期日銀総裁・副総裁が大金融緩和を実施しそうだから金利は当面下がるだろう」という中で、投機的短期勝負に出ている人達が現在の金利状況を作っているのであろうと思います。
つまり此の投機が常に先行し、ある意味の短期的な利食い先行型の相場が作られている結果ということですが、中長期的に見れば先日も「2年後の消費者物価上昇率が2%に達しない場合は職を賭す」と某副総裁候補は言われていましたが、仮に2年間でそういう動きになるとすれば、非常に早い動きでまた金利は反転して行くことになりましょう(※1)。
上述した通り基本的には、長期金利が低下するということとインフレ率が2%に達するということは相矛盾したものですから、必ずどこかの時点で金利が上がり出す局面を迎えることになると思います。
そして恐らく、それは急激な上昇になるのではないかと思われ、当該部分については一旦上昇し出したら最早方向は一つしかなく乱高下することはないというふうに見ています。
また前々から指摘している通り、インフレ率を2%に抑える匙加減は困難を極めるに違いなく、インフレ率にしても為替にしてもそうですが大体こうした類はどっちに転んでもオーバーシュートしがちです。
従って、私は割合短期間で金利が反転上昇して行くと思っていますし、その反転は今買っている人達が利食いすることにより起こってくるのではないかと考えています。
そもそもの話として、大金融緩和によりインフレ率の上昇だけが齎されれば良いわけでもなく、そこにはやはり実需が発生してき、そしてデフレが本当に解消されてこなければなりません。
それ故に実需を発生させるため、換言すればデフレから脱却するために皆の気を変えることが非常に大事になってきます。
経済もやはり気であって、景気という字が何故に当て嵌められているかということをよく考えてみるべきで、元気の気と同じように皆の気分が変われば景気は上向いて行きます(※2)。
今、株式市場が上昇し土地相場も上がってきているのは、消費者も投資家も皆マインドが変わってきているわけですが、先ず最初に此の変化ありきですから、そういう意味で「安倍ノミクス」というのは“so far, so good”であると私は捉えています。
安倍政権の大変有意な政策運営により為替状況も大きく変わってき、3月8日に3年7カ月ぶりの円安水準1ドル=95円台突入となり、本日は96円台となっているわけですが、その結果として起こるのは輸出関連企業の利益が更に上積みされるということです(※3)。
唯、だからと言って時代に取り残され国際競争力を喪失したゾンビ企業については、円安であるか否かに拘らず最早浮かぶ瀬はありません(※4)。
沈没するゾンビ企業はともかく、例えばトヨタ自動車株式会社が更に利益を上積みするといったことは可能であり、各種報道機関で良い発表が為され之がまた気を強くして行き、そして景気を良くするという中で何れ設備投資が出てくることにもなるでしょう。
そういう中で今私が一番心配しているのは、消費税増税がマイナスに作用し日本経済が再び低迷の一途を辿る可能性があるということで、先月1日のブログ『貯蓄税・消費税・日本版ISAに対する私の考え方』においても当該観点から指摘しました。
安倍政権は4-6月期のGDP統計に基づいて消費税増税を判断すると言われていますが、当該期間においては補正予算も付くことから、あたかも全てが好転して行くように見える結果が示されるような気がします(※5)。
私見を述べるならば、デフレからの脱却というよりも景気低迷からの脱却と言った方が良いかもしれませんが、景気低迷から脱却出来るという十分な確信を得るまで消費税を上げるべきではないと考えています(※5)。
安倍総理は先送り体制を模索しているように見える一方、財務大臣の麻生氏はそうは考えていないように思われ、それこそが今安倍政権にとって難しいところではないかと思います。
嘗て橋本龍太郎政権時に経験したように、折角よちよち歩きし始めた日本経済が今回もまた消費税増税により下手に腰折れするということになりますと、景気低迷から脱すべく此の数ヶ月間に何をやってきたのか分からないというような状況にもなりかねず、その部分において私は少し危惧しています(※6)。
仮に日本経済が「好転」したとして財務省の音頭取りで消費税増税が為されるという場合、その実施前に余程の弾みがついてくれば切り抜けられるのかもしれませんが、その事前の弾み具合によっては腰折れしてしまう可能性もあり、今のところ私は五分五分であると認識しています。
本日「米金融大手リーマン・ブラザーズの経営破綻直前である2008年9月12日の終値1万2214円76銭」を上回る形で日経平均は推移していますが、先に述べた通り消費税増税さえ先送り出来れば、16,000円台から18,000円位まで上がる可能性は十分にあると見ています(※7)。
また、ダウ30種平均が4日連続で過去最高値を更新している米国について言うと、一部で「今月末には13年度の暫定予算が失効し、延長などの手を打てない場合には、段階的な政府機関の閉鎖という異常事態を招く。連邦債務の上限引き上げも5月中旬までに可決できなければ、米国史上初の債務不履行が現実味を帯びることになる」といった問題が懸念されていますが、私は日本の状況とは違ってそれ程心配しておらず、米国は上手く乗り越えて行くものと思っています(※8)。
例えば、月々発表されるような主要経済指標についても今のような調子で好転している限りにおいて、これからも米国の相場は強く最高値を更新し続けて行く可能性は極めて高いというふうに見ています。
あの08年9月のリーマンショック以後、今日までに世界各国が行ってきた厳たる事実の一つを端的に述べるならば、世界中が紙幣を刷りまくり大量にばら撒いてきたということであって、一つの大相場がくるきっかけになることは間違いなく株が上がらないということは常識的には考えられません(※9)。
これまで米国においては、QE1・QE2・QE3と大規模な量的緩和(Quantitative Easing)の拡大をどんどんと激しく実施してき、更には購入対象においても一番のポイントとなる住宅関連のところをきちっと押さえた形で取り組みが為されてきました。
金融市場で100年に一度あるかないかの大変なturmoilのど真ん中で危機的状況を封じ込めてきたバーナンキは正に偉大な議長であり、彼がいなければ世界経済は本当に可笑しな状況に陥って行ったのではないかと思います(※10)。
その間、日本においては早期に量的緩和が実施されたものの、その全てが“too little, too late”型の中途半端な施策の積み重ねでしかなかったわけで、そういう意味では次期日銀総裁・副総裁とりわけ「黒田・岩田コンビ」には期待しているところです。
唯、先日の衆院議院運営委員会での所信聴取でも岩田副総裁候補は日銀法改正について公言されていましたが、今はそうした国内外から指摘される問題に言及する必要はないタイミングであり、淡々と様々な手段を講じ色々なアセットを買って行けば良いだけではないかと思います。
例えば、総裁候補の黒田氏は上記委員会で「日銀として外債を大量に買うことは国際的なルールから言っても難しい」と語ったそうですが、私見を述べるならば別に外債を買わずとも日本のもので構わないと考えており、どれだけの量的緩和をどの期間に何を購入して行うのかというように、米国同様非常に細かく公表しながら日本も緩和拡大に努めれば良いでしょう(※2/※11)。
最後に金価格の今後について簡単に述べておきますと、先ず此の金を巡っては「結局は、巨大なドル危機へと帰着し、金が再び、見直されるだろう」という識者もいれば、クレディ・スイスのように「金の長期的な上昇局面がピークアウトした」というレポートを出しているところもあります(※12/※13)。
私としては、基本的にピークアウトしたと考えても良いのではないかと思っており、米国経済が強く展開すればする程、此の金価格というのは下落して行くことになるでしょう。
先週木曜日の日経新聞朝刊記事で指摘されていた「大手企業復活」「シェール革命」「緩和マネー」という3つの理由こそが、正に米国経済がブリッシュである所以です(※14)。
その中でも、やはり「シェール革命」のような所謂manufacturing sectorに対して最も大きな影響を与えるエネルギーのところで革新が起こるということは大変なことです。
何故ならば、当該革命により米国経済のエネルギーコストが安価になって企業の国内回帰が加速するリターン現象が起こり、そして設備投資が活発化し景気を押し上げて行くという好循環に繋がって行くことになるからです(※14)。
従って、そういう意味で当面ドルは強くなる状況が続くと私は見ており、ドルが強くなる時に金が強くなるというケースは殆ど考えられませんから、金はピークアウトしたと捉えても良いのではないかと思っています。

参考
※1:2013年3月5日ブルームバーグ「岩田日銀副総裁候補:2年で達成できなければ辞職-物価目標2% (1)
※2:2013年1月9日北尾吉孝日記『「安倍ノミクス」への期待感~デフレ脱却と金融政策~
※3:2013年3月8日MSN産経ニュース「円安が加速、一時1ドル95円台 3年7カ月ぶり
※4:2013年1月31日北尾吉孝日記『「安倍ノミクス」を巡る諸論点
※5:2013年2月1日北尾吉孝日記『貯蓄税・消費税・日本版ISAに対する私の考え方
※6:2011年8月26日北尾吉孝日記『終焉に向かうパックス・アメリカーナ
※7:2013年3月8日日本経済新聞「日経平均、リーマン前水準を一時上回る 円安進行で輸出株買い
※8:2013年3月3日高知新聞『【米歳出強制削減】硬直した姿勢が目に余る
※9:2012年10月5日北尾吉孝日記『2013年の政治経済展望
※10:2008年10月3日北尾吉孝日記『金融安定化法案
※11:2013年3月4日日本経済新聞『黒田氏、日銀の外債購入「国際的なルールから言って難しい」
※12:2013年3月号選択『通貨戦争の眼目はドルと金
※13:2013年3月3日日経ヴェリタス『上値が重い金、漂う先安観 著名投資家が相次ぎ売却、「上昇ピークアウト」の見方』
※14:2013年3月7日日本経済新聞「米株高、3つの原動力 大手企業復活 シェール革命 緩和マネー 財政・雇用に不安




 

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